金融にITを融合したフィンテックに続くか。不動産業界でもデジタルテクノロジーが変化を迫ろうとしている。業者の情報優位で価格が見えにくい慣行に挑み、事業化を進めるベンチャーが続出。中古住宅市場の底上げや空き家対策に一石を投じる。「不動産テック」の動きと課題を追う。
住宅の価格推定サービスを提供するコラビット(東京・港)の浅海剛社長は7月下旬、横浜市郊外の自宅を売却した。同社は過去の取引データと人工知能(AI)を使い「丁目単位」で住宅価格を推測する。昨年末、試しに自宅を検索したら3990万円。「意外に高い」と売りに出し、実際に3980万円で売れた。
流通の9割新築
実は浅海社長の起業はこの自宅がきっかけ。5年前、通う会社の近くにと4080万円で買ったが、翌年にその会社が買収され、職場が都心に変わった。すぐ売りたかったが相場観がわからず「中古だと半値かも」と不安が募った。そもそも「なぜ価格がよくわからないのか」との意識が芽生え、事業化を思い立った。
国土交通省によると住宅ストック資産額は350兆円に上り、全国に6060万戸ある。問題は流通する住宅のうち9割が新築で、中古は極端に少ないこと。購入時の価格はわかるが、取引のデータが一元的に整っていないなどの理由で、数年後の価値がどう変わったか把握するのは難しい。
野村総合研究所の谷山智彦氏は「AIとビッグデータ解析で価格推定の新サービスが生まれた。昔は業者に依頼しないとわからなかった情報を簡単に低コストで知ることができる」と話す。マンションマーケット(東京・中央)は全国のマンション価格を推定し、月間16万人が利用している。
空き家に着目
中古物件で深刻化しているのが空き家問題だ。820万戸に上り、住居の1割以上を占める。2030年に3割を超えるとの試算もある。国交省幹部は「空き家は不動産価格も悪化させる」と懸念する。
これに着目するリノベーション業者がある。リノベる(東京・渋谷)はフェイスブックなどで客を募り、築20年超の「空きマンション」を改築して販売する。 都内で3000万円前後の物件に900万円の工事費を投じ、内装を客の好みに変える。施工実績は1200件で、買い手は平均37歳。山下智弘社長は「中古の価値を高める」と話す。
中古市場の停滞を反映し不動産価格は15年前からマイナス基調が続く。家賃を含む住居は消費者物価指数の5分の1の比重にあたり、6月も前年同月比0.2%下落と足を引っ張る。デフレを象徴する領域も、不動産テックで活性化すれば風景が変わるかもしれない。
日経新聞より